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運の台頭と日本人船員費の高さで、日本海運は"空洞化"を通り越して"真空化"に向かっている。この真空化という言葉は、「日本商船隊浮上への試煉」という副第のついた、平成七年五月の外航海連・船員問題懸談会報告で「我が国外航海連産業の空洞化を通りこした真空化ともいうベき現象」という文章に登場する。真空化は海運という一産業の問題ではなく、我が国産業全体の空洞化を解決する先駆的役割を果たす意味からも重要である−と指摘して初めて使われた。残念なことだが、この"真空化"現象はその後も続行している。
我が国商船隊は?日本籍船?仕組船?単純外国用船(貨物の増減による船腹需要に対応して海外からチャーターしてくる外国籍船)の三種類から構成されている。そのなかで、日本籍船が占める比率は、平成七年央現在、隻数で一一%、重量トン数ベースで二二%しかない。十年前の千二十八隻、五千五百五十一万トンが、二百十八隻二千百六十八万トンにまで減ったのである。

 

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このような日本籍船の減少とともに十年前には二万五千人だった日本人船員は平成七年には六千人を下回るようになってしまった。海運サービスの提供手段である船舶を「工場」、船員をそこで働く「従業者」にたとえると、日本の外航海運業では八〜九割が海外にシフトしてしまったといえる。自動車や家電業の海外への移転が伝えられ、今日では中小企業のアジアヘの工場移転も珍しくなくなったが、八割や九割もの工場や従業員が外国へ行ってしまった日本産業はない。外航海運は日本産業では突出した存在になっている。
こうした現状がさらに進むという意見もある。西暦二〇〇〇年(平成十二年)には日本籍船は九十五隻、日本人船員数は四千人を不回るという運輸省の試算が既に公開されている。前提条件のとり方などもちろん議論の余地があり、あくまで試算だが、こわい数字である。話がやや飛躍するが自然界にあって動物の"種"は個体数が一定数を下回るまで減

 

 

 

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